社会人学生の愉快な仲間達

親子で通学
 日本大学法学部にY本さんと言う「名物学生」がいる。Y本さんは都内で幅広く事業を行なう実業家である。何故名物学生かといえば娘さんと一緒に通学する「親子鷹」なのだ。
 Y本さんは「全共闘世代」だ。日大芸術学部に一度入学したが全共闘運動のゴタゴタで退学された。その後、彼は事業を興し成功し、時間に余裕ができたので再び大学に行ったというわけだ。娘さんは短大を卒業しY本さんが大学受験をするという事で父親と一緒に学びたいと日大の門を叩いた。
 2人は、いつも机を並べ講義を受けている。その姿は微笑ましい。また、Y本さんは講道館柔道6段の猛者でもある。学生が廊下で騒いで注意したが聞かなかったので締め技で落としたらしい。講義はいつも一番前で受けており積極的に質問もする。「先生!」とダミ声で手をあげると、教授達は思わず教壇から降りて敬語で質問に答えていた。「落とされる」のを教授たちも恐れていたのだろうか?
 土曜日は教科書とともに「柔道着」を持って通学している。講義が終わると近くにある「講道館」で汗を流している。Y本さんは社会人学生の親分的存在である。
●特待生
 日大社会人学生仲間の「癒し系」O倉さんは「公務員」である。そしてユニークな経歴の持ち主でもある。彼は高校卒業後「海上自衛隊」に入隊。6年余りの「軍人」経験のあと、都内のある区の公務員になり、その後日大に入学した。 非常にマジメな男である。彼のノートはいつもびっしりとキレイな字が埋まっている。このノートにどれだけの社会人学生がお世話になったことか。
 成績もほとんどが「優」だった。2年次になるとO倉さんはなんと「特待生」に選抜された。性格も温厚で、現役学生にも多くの友人がいる。彼は「国防」に熱い思いを抱いている。でも、決して右翼学生ではないことを付け加えておく。
 O倉さんは教職も履修しており、本年度は教育実習にいくらしい。それも「定時制高校」である。O倉さんのような苦労人はきっと素晴らしい先生になることであろう。
●ネットワーク
 インターネットをはじめて多くの社会人学生と知り合った。それぞれが個性豊かで、これまでボクの周りには存在しなかった人間ばかりであった。
 明治大学のNさんはその中でも特に素晴らしい「漢」である。初めて彼と会ったのは2001年の4月だった。大酒のみで饒舌でパワフルなNさんは、プログラマーが本職である。若くして「会社」を興した事もあるらしい。超多忙な身にもかかわらず積極的に社会人学生の交流を行なっている。Nさんを通じて沢山の他大学の学生と知り合うことが出来た。そして、ひと回り年齢が違うNさんから多くの事を学ぶ事が出来た。
 ホームページを開設したらさらに友人の数が増えた。早稲田大学のKさんにSさん、そしてHさん、東京理科大学のHさんにIさん、電気通信大学のSさん、明海大学のAさん、ネット上でもたくさんの友人がいる。
 社会人学生は学問の探求の他にも「異業種間交流」という何事にも変えがたい素晴らしい「文化」があるような気がしてならない。
●多士済々
 日本大学法学部の仲間たちの職業は「多彩」だ。思いつくまま述べてみよう。
S君「東京都職員・都立高校学校事務」
K君「衆議院・衛視(正式名称がわかりません)」
Bさん「自営業・母と学生の3足のわらじ」
Sさん「大手通信系課長(超多忙)」
 そして「K市教育委員会」「消費者金融社長」「海上保安庁」「自衛隊病院ナース」「出版社」「新聞記者」「消防庁」「裁判所」「検察庁」と枚挙にいとまが無い。まさに「多士済々」である。
●卒業総代
 どの大学も社会人学生は「優秀」らしい。平成13年度の日大法学部の卒業生に司法試験合格の社会人学生(女性)がいた。早稲田大学第二文学部もここ数年社会人学生が卒業式の「総代」をつとめているらしい。先日早稲田大学の「大人の会」という飲み会に参加した。その時、昨年度の総代の方と話をした。そのスキルの高さに驚きそして大いに刺激を受けた。
 社会人学生が大学で学ぶ目的は様々である。現在の仕事に生かしたい人、生涯学習の人、転職したい人、法職につきたい人、確固たる目的をもって学ぶ人が多い。
 「卒業」する事が目的ではなく「学ぶ」目的をもって通学している彼らを見て現役学生たちはどの様に映っているのだろうか?
●超多忙
 「どう〜もねえ!」いつも元気に我々に挨拶をするのは大手通信系課長のS濱さんだ。S濱さんには脱帽する。なにせ仕事が超多忙なのだ。自宅は千葉県の郊外。電車で1時間以上かけて通勤し、夕方は時間を作り大学に来て講義を受けて、そのまま職場にリターンしてまた仕事。終電で帰れないこともしょっちゅうで、彼のカバンには1週間分の着替えが常備している。会社の仮眠室で寝て、そのまま仕事をする事も1週間のうち何回もあるらしい。
 そんなS濱さんも無事!に4年になった。卒業単位もすべてとったらしい。さすがは課長さんである。
 教授たちに「名刺」を配り「単位」ゲットに役立てている。我々はそれを「S濱さん名刺作戦」と名づけて、真似をする社会人学生も数多い。

●指定席
 社会人学生は教室の「最前列」で講義を受ける。不思議な光景だ。それも教壇から向かって「右側」か「左側」が指定席である。最後尾に座る者は皆無だ。成績に関係なくほとんどの社会人学生が最前列に座っている。最前列に座ろうが成績に影響するものでもない。多分、自腹で授業料を支払っているので「もったいない」というキモチで最前列に座るのだろうか?
 他大学の学生に聞いたらやはり指定席は前列らしい。仕事の関係で教室に遅れて入ってきても堂々と前に座る。そして仕事の疲れからか居眠りも堂々としたものである。こんな愛すべき社会人学生の行動パターンは面白い
 ちなみに筆者は向かって右側の前から4〜5列目に座ると妙に落ち着くのである。

●神頼み
 昨年の「後期試験」の事である。翌日の「刑事法(必修科目)」の試験対策に万策尽きた我々社会人学生仲間は、お互いに慰めあいながら、水道橋駅に向かってトボトボと歩いていた。すると突然、前述したS濱さんが「そうだ!神頼みしよう!」と言い出した。「そうか!その手があった!」と我々は三崎町の氏神様である「三崎神社」へ向かった。三崎神社は徳川家光が建立した由緒あるお宮である。我が日大法学部のすぐ側にある。
 我々は奮発して100円玉を賽銭箱に投げ入れ「どうか明日の刑事法のヤマが当たります様に・・・」とそれはそれは真剣に拍手を打ちお参りしたのだった。「さあ!帰ろう!」すっきりしたのかS濱さんは(さすがに賽銭箱にあの名刺は入れなかった)「優」をもらったかのように足取り軽く帰宅の途についたのだった。
 翌日、見事に全員ヤマがはずれ、玉砕した。
 4月3日、成績発表の日、我々が真っ先に注目したのはもちろん「刑事法」の成績。あろうことか見事に及第していた!
しかし、只1人、いい加減にお参りした「サカドくん」だけ「不可」を頂戴し「三崎神社は当たらねーぞ!」と毒づいていた。荒れるサカド氏を尻目にS濱さん以下、その足で三崎神社にお礼参りをしたことは言うまでもない。
●水曜会
 O倉、サカド、H口、そしてそーきちは、毎週水曜日になると、三崎町界隈を荒らしている。発端は「マスコミ倫理・法制」の講義が終わって「小腹がすいたなぁ」とサカドが言い出した事にある。行く先は当然居酒屋だ!ここで「宴」が大いに盛り上がった。「そうだ!この飲み会は毎週開催しませんか?」と誰ともなく言いはじめた。せっかくの飲み会だ、他大生も誘おう!ということで、HPやメールでアナウンスをしたところ、早速、お隣の御茶ノ水の某M大学のNさんも参加(結局Mさんはコアメンバーになってしまった)。この輪は少しずつ大きくなり、参加を表明する他大生も増えてきた。理科大や都立大生も参加する事になる。しかし、「水曜会」にも障害がある。スタートが21時30分くらいなので、「終電」までの少ない時間で一気に盛り上がらなくてはならないのだ。
しかし、そこはもてなし上手の日大生。終始お笑いの宴を演出する。「気のおけない仲間」たちとのプチ交流会をいつからか「水曜会」とネーミングし、われわれの週に一度の密かな楽しみとなってしまった。卒業までのわずかな時間、われわれは「大学生」というアイデンティティを名残惜しむかのようにこの「水曜会」で保っているわけである。